心理療法への精油導入




著者:Dr. med. Peter Lunge
専門医、スポーツ心理学、レヒトメーリンク市で個人診療所を開設。

人間の嗅覚と感情は密接に結びついているので心理療法への香料の使用は当然のことの様に思われる。勿論治療行為は全般に科学的に点検されねばならない。アロマテラピーは一方で植物の生命力利用を意図し微少体を想定する神秘主義と繋がり、他方では立証可能な科学と繋がるいわばグレーゾーンの存在と言えよう。アロマ心理療法には未だ標準化された手順書は無いとは言え、多数の経験と事例報告の集積は存在する。著者はパニック障害の発作時や鬱状態での自信喪失の際の「心の支え」としてアロマミニボトルや香りハンカチの携行を勧めている。


心理療法へ精油を導入するために、心理アロマテラピーという表現を用いたが、ここで問題になっているのは確立された診療法では全くないから、むしろ「アロマコンサルティング」とか「アロマ診断」という名前の方が良いかもしれない。

古代インドのアーユルヴェーダ時代や古代ギリシャには植物の香りの持つ精神医療面での効能についてもう既に知られていた。例えばタイムの持つ精神安定作用を古代の武人は利用していた。今日の研究からも証明できる事だが、香りにより脳波が影響を受け、認知症患者の睡眠や行動が改善されたり、或いはガン患者の生活上の快適感が向上する事も有る。
鬱病患者の嗅覚能力が減退したり、統合失調症患者が気持ち良い香りに対し鈍感になる事も良く知られている。

心理アロマテラピー
香り分子は空気に乗って鼻孔に入り、鼻孔上側に在る嗅覚上皮で粘膜液に溶け込む。ここで嗅覚刺激が電気信号に変換され大脳辺縁系に伝達されるが、ここは情動を司る脳の部位である。こうしたわけで匂いは緊密に感情や記憶と結びついている。我々が匂いに気付く迄の間に、電気信号は認識を司る海馬などの部位に既に伝達され済みなのだ。最終的に香り刺激は「幸福ホルモン」という名称で知られている神経伝達物質セロトニンや痛み緩和のエンツェファリンにも作用を及ぼす。従って歯科医待合室で香り効果を試したところ恐怖感を減らし気分を明るくする効果があったという研究結果など理解しやすいのだ(オレンジの香り)。

心理療法への香り利用については先ずこれは確立された標準医療法の代替をなすものではない事を強調する必要がある。しかし患者に十分説明した後になら、アロマテラピーは有益な補完療法として使用可能だ。その際個々の精油の有効成分のみならず患者一人一人に応じて調合されたブレンド精油も使用されるべきである。精油経験を積んだ薬剤師に協力して貰えれば一番良い。筆者自身この分野で著名な薬局に依頼して、心理療法用やスポーツアロマテラピー用の精油ブレンドを調合して貰っている。

精神病や神経症への使用
ブレンド精油はホホバ油なりアルコールなりで薄めて自然香水の形にされる。この自然香水を手首内側に一滴ずつ垂らし、皮膚に擦り込む。アルコール希釈であればミニボトルから直接香りをかいだりハンカチに垂らして染み込ませたりできる。アロマミニボトルの形ならハンドバッグや車の中に持ち込んで気持ちの支えとして利用できるのは、移行期の幼児が玩具を心理的支えにするのと類似である。いずれにせよこれらは急場の応急手段であり多用すると副作用が生じかねない。
患者にはアレルギー反応や頭痛や吐き気といった副作用を説明しておくべきである。またアロマテラピーを場合によっては使わない方がよい例としては、ひどい皮膚炎、妊娠、テンカン、高血圧、紫外線被爆、ホメオパシー療法適用時等が知られている。

アロマ使用可能性の第一は精神病・神経症だ。例えばパニック障害患者にアルコール希釈のミニボトル入り緊急鎮静用香水を予め渡しておく事などが考えられる。鬱病患者には気持ちを安定させる作用のある自然香水を与えておき、落ち込んだときには肌に擦り込んで貰う。適用可能な症状としては更に自信喪失時や持続的な対人関係障害などがあげられる。

競技スポーツにも使用可能
(以下省略)