診断「精神分裂病」ー待避第二番線なのか?




著者:Claudia Arbeithuber(クラウディア・アルバイトフーバー)
精神神経科専門看護師、オーバーオーストリアのシュテイル州立病院の精神科勤務の傍らアロマ介護コンサルタントとして活躍

精神病、分裂病、キチガイ、これは皆同じ事なのか?文明が進歩発展した社会に生きている我々でも、現代医学のおかげで病態や兆候について科学的な診断が下せる様になったとは言え、さらに病んだ社会構成員への人間的理解が進んだ今日であるとは言え、それでも我々の多数は精神疾患を先ずもって「キチガイ」「馬鹿」「精神病」「分裂した人格」という概念で受け止めがちだ。とりわけICD10-F20-F29(国際病態分類第10版、症状20から29迄)の「分裂病、分裂タイプ、狂気性人格障害」と認定された患者についてはそうである。


こうした患者の治療、援助は退屈で期待はずれな事が多い。症状或いは病態ときたら我々の多くには理解しがたいものだ。。

精油と分裂病 ー 両立するだろうか?

Schizophrenie=分裂病という用語は古代ギリシャ語のschizein=分断するとphren=魂という二つから合成された言葉で、思考や認識や愛着の精神的障害であり、それは様々な病態として発現し得る。入院患者の中でみれば、もっとも多い診断名の一つとなっている。

精油の方はその精神バランス効果で知られており、我々の快適感を増進し日常生活を豊かにしてくれる。さて我々とはまるで違う様に外界を認識している人間に精油はどの様にはたらくのだろうか?ごく小さな物音や感覚刺激にさえ苦痛を感じ、通常音量の話し声をしていたら絶対に近寄らせてくれない、そういった人間達には?様々の水準の障害に苦しみ、周囲の人間達に信頼感のおけなくなったそういう人間達の事だ。
基本的に言える事だが、こうした患者に接する際は細やかな配慮が必要だ。大いなる共感能力と精油効能についての知識が必要となる。
他の精神科分野での介護でもそうだった様に、分裂病患者の介護に当たっても自分自身当初大きな過ちを犯してしまった。決定的な間違いは「他の科で使用されている分量標準や常備標準精油を精神科に応用しても大きな間違いにはなるまい。」という我々の思い込みだった。ところがそうではなく、精神科には特有の標準化が必要な事が次第に分かってきた(第32号に筆者の書いた境界性人格障害についての文を参照せよ)。とりわけ思考・認識障害の場合は処方分量を可能な限り少く押さえねばならない。

精神分裂病者への最初の精油使用

恐怖、不眠そして幻覚、これが分裂病患者の苦しむ症状の代表例だ。これに加えて集中力や注意力の低下、過剰な自己関連付け、気違いじみた思考それに自分が病気であるという意識の欠如が続く。
そういう訳で我々が当初実施したのも試験的なものでしかなかった。
すぐ分かったのは個別精油毎に作用を確認する必要のある事だった。どの様に患者に近づくかも問題であった。というのは患者は他人が近づくのを嫌がり体に触られるのも嫌うからだ。そう言うわけで精油使用は室内芳香に限定されてしまう。最初精油を使った時に引き起こされた騒動については前号で記した通りだ。後日0,5%濃度も試みられたがこれも予想もしなかった様々な反応を引き起こしてしまった。そして最終的に精神科全体に共通適用が可能な濃度が発見された。

「香り試料」はうんと薄めて

看護スタッフが単一精油を受領することは決して無い。その代わりに混合済みの希釈液がナースステーションに配置されている。100ミリのキャリアオイルに1滴の割合で精油が混ぜてある。この希釈率で患者にテスト品が渡されるが、室内芳香用としても使われる。これだけ薄めても患者の異様な反応が絶える事は無かったがそれでも頻度はずっと減少した。

使用時期を正しく選択すべきこと

精神科の患者を扱う際厳密に考えておくべき事がある。患者に向かってある種の指示をいつ出して良いのか、或いは更に待つべきなのかの決定である。理解力と勘が必要となる。アロマ介護を行う際もこのルールは有効だ。精油効能だけで好結果を生み出す訳ではなく、正しい時期に正しく使用せねばならない。この決定に重要なのは患者の現況だけではなく患者個々人の過去、個人史も重要なのだ。
履歴の不明な患者に精油を使うのは禁忌であり、又急性症状を示している患者やRaputus状態或いは膠着状況中の患者への使用も避けるべきだ。

どんな油なら使って良いのか

著者の勤務経験の中で、使用される精油は少数のものに収斂していった。
著者が最も使う油はサンダルウッドとシダーウッドになっった。両者とも気持ちを落ち着かせバランスを取る効能が強いからだ。患者の睡眠行動にも良い影響を与える。この精油は患者に中心を与え、大地と触れ合わせ、人間内部への意識の集中を助ける。つまり内なる私への集中を。

魂の精油:精神分裂
症状 精油
●思考の混乱
●感情の混乱
●意思、行為、自己認識の混乱
●随伴する付加的な各種症状
サンダルウッド
シダーウッド


その他に私のよく使うのがバジルとエストラゴンだ。両者とも他科の入院患者にはあまり使われないものだが、私には精神に重要な二つの精油だ。バジルはストレス、いらだち、神経過敏によく効く小さな手助け、つまり神経の油だ。そしてエストラゴンは恐怖や不安に囚われた際に内なる私を強めてくれる。
この四つは私が精神病者を護り付き沿う場合の最良の支えになっている。確かに他にも精油はあるし効果的でより安価なものも有るかもしれない。でも私は上に記したものに決めたのだし、患者の反応を見ているとその決定が正しかったのが何度も確認される。

まとめ

精神疾患者への精油使用は充分に事前検討がなされねばならない。とりわけ精神病状態の患者には精油の選択に注意し単一精油をごく薄めて使わねばならない。通常私は100ml又は50mlキャリアオイルに一滴垂らして香りテストに使いそれからの濃度上昇はごくゆっくり進めている。急性精神病状態の患者には精油使用は一切避けている。
大事なことは、前もって状況を正確に推定し、患者との関係づくりにいそしみ、信頼を醸成し、使用精油の選択を慎重に行い、適切な時期、タイミングを計ることだ。つまりは精神病介護の日常作業に他ならない。

この記事に記した事例や報告は私自身の病院勤務精神科看護婦及び個人診療所オーナーとしての体験に基づく。