夢の香りと香りの夢。睡眠中でもにおいをかぎます。良い香りで良い夢が見られます。

夢の香りと香りの夢



雑誌名:フォーラム
通巻:10-1996
ページ:15
著者:ハンス・ハット(Mr.)
題名:いつでも鼻に従って.......嗅感覚の分子論的基礎
著者紹介:医学博士、ボッフム市のルール大学教授。1993年以来同大学の神経中枢嗅覚システムの嗅覚受容体プロセス研究の指導者
翻訳:フィルマ・フカヤ(http://www.fukaya-shouten.biz)

(以下はハット教授による表題の講演の最後の部分の翻訳です)

最後に大学の睡眠実験室で最近得られた二つの新事実について皆様にお知らせしたく思います。
男性被験者に睡眠中三つの異なる香りをかがせました。第一はオレンジの香りで、これは世界中で気持の良い香りとして認められています。

ついでに申し上げると、ある香りが気持良いと感じられるかどうかは学習の問題です。これは味覚上の味の良し悪しとは反対で、味覚は先天的です。一歳未満の乳児期から子供がパンツに大便を漏らすたびに周りの人間が「良い匂いだね」「良いアロマだ」などと言い続けたと仮定して下さい。きっとその子は大きくなって糞便の匂いにうっとりするようになることでしょう。しかしそうならないのは、お漏らしをするたびごとに母親に「いやねえ、駄目じゃない」「やな臭い」などと言われ続けてきたからです。その結果子供は糞便臭(スカトール)を否定的にとらえ、気持悪いと感じるようになるのです。「気持良い」「気持悪い」と世界中どこでも共通に感じられるにおいは少ししかありません。例えば日本人にはイタリア人の好むピザの焼ける匂いなど耐えられないかもしれませんし、逆にイタリア人は醤油の臭いを嫌うかもしれません。
(訳者註:ハット教授はピザが日本に定着している事実をご存知ない様です。ドイツ人の発表によく日本が引合に出されるのは、日本が文化的背景を異にしながら資料データの豊富な国だからでしょう。)

話を元に戻しますが、オレンジの香りに続く二番目と三番目のにおいとして睡眠実験室では糞便臭(スカトール)と人間の体臭(腋の下の匂いと女性器分泌物の混合)を試しました。男性被験者が夢を見始める直前にこの三種のにおいをかがせたのです。これは計測できます。そして生理的パラメーターのデータを取りました。心拍数、呼吸数、心電図、脳波計それに筋肉収縮も計測しました。夢を見た直後に被験者を起こして夢の内容を問いました。

「夢など見たことが無い」とはいろんな人の言うところですが、実際は人間は誰でも夢を見ます。それも毎晩だいたい四回見ます。それどころか夢を見させない様にすると人間は死んでしまいます。ただし夢の内容について人間は目覚める直前に見たものしか覚えていませんし、目覚めて数分後にはこの夢さえ忘れてしまいます。
睡眠中の心拍数は香りの影響を受けていました。香りA(オレンジ)B(スカトール)C(体臭)です。スカトールや体臭に比べてオレンジの香りは睡眠中の心拍数を増加させました。この実験は人間が睡眠中でもにおいがかげることと、匂いが生理的パラメーターに影響を及ぼすことを示した最初のデータになりました。呼吸数も香りの種類によって顕著な影響を受けました。しかし一番驚いたのはにおいにより夢の内容が大きく違ってくる事でした。

糞便臭であるスカトールをかいだときには良い夢は見ません。オレンジの匂いは平均以上に良い夢をもたらします。人間の体臭は大体オレンジと同じ程度の気持の良い夢になります。皮肉っぽく言えば、パートナーの代わりにオレンジを一つベッドに持ちこめば役に立ってくれる訳ですが、当研究室ではそこまでは申し上げません。